【本所七不思議】置いてけ堀で魚を釣った男に降りかかった恐ろしい報い

2025年9月8日

置いてけ堀とは?本所七不思議の代表的な怪談

江戸時代の東京、現在の墨田区本所周辺には数多くの水路や堀が張り巡らされていました。そのうちの一つ、「置いてけ堀(おいてけぼり)」は、本所七不思議の中でも特に有名で恐れられた怪談の一つです。語源にもなった「置いてけぼり」という言葉が、ここで生まれたとも言われています。

物語はこう始まります。ある日の夕暮れ、仲の良い町人たちがこの堀で魚釣りを楽しみました。魚は非常によく釣れ、釣り人たちは満足して帰り支度を始めると、堀の中から突然「置いてけ、置いてけ」という声が響いたのです。その声に怯え、急いで逃げ帰ると、釣ったはずの魚は跡形もなく消えていました。

この怪異が繰り返されるうちに、「魚を釣ったら必ず3匹は逃がさなければならない」「逃がさなければ帰り道に迷う」「すべての魚が奪い返される」といった言い伝えができました。この堀はまるで、魚だけでなく人の魂までも“置いてけ”と言わんばかりに引き止める場所だったのです。

置いてけ堀の舞台とその謎

どこにあったのか?複数の説がある置いてけ堀の場所

「置いてけ堀」の正確な場所は今も特定されていません。錦糸町付近の「錦糸堀」が有力ですが、墨田区横網や江東区亀戸にも置き去り堀の伝承があり、史跡として碑や案内板が設置されている場所もあります。 墨田区錦糸町付近の錦糸堀
横網一丁目・二丁目周辺(御竹蔵跡地)
江東区亀戸(区立第三亀戸中学校の付近)

これらの場所はかつては江戸の広大な水路網の一部で、魚が豊富に生息していました。そのため類似の怪談が複数地域に伝わり、物語はさまざまに変化しながら口伝されてきました。

なぜ声が聞こえたのか?河童や狸の怪異説も

堀から聞こえた「置いてけ、置いてけ」という声の正体は、江戸時代の人々にとって説明のつかない怪異でした。民間伝承では、 河童の仕業
狸のいたずら
水霊のたたり

などが噂されました。特に河童伝説は全国的に有名で、置いてけ堀の河童の存在は石像や縁起物としても地域に残っています。

江戸の水路は人々の生活と密接に結びつき、謎の声や怪異が想像力を掻き立てる舞台となりました。

置いてけ堀の恐怖を体験した男の話

魚を釣った男の油断とその報い

ある日、魚釣りに出かけた若い町人の男がいました。男は置いてけ堀で魚をたくさん釣り上げましたが、幽かな恐怖心から逃がさなければならないと聞いていながら、それを知らずに釣った魚をすべて持ち帰ってしまいます

帰路につこうとした矢先、堀の水面から「置いてけ…置いてけ…」と低くささやく声が聞こえてきました。男は道に迷い、いつしか全く知らない深い水路の森の中に入ってしまいます。

やがてその男は、魚たちが次々と水中から現れ、自らの釣り上げた魚を返せと迫ってくる幻を見ます。魚を返そうと試みるも手遅れで、男は泥沼のような堀に引きずり込まれたと言い伝えられています。

体験談から見える教訓

この話からは、江戸時代の人々の間で 自然や水の神秘を敬い、礼節を欠いてはならない
恩恵を受けたならそれ相応の礼を尽くすこと
無暗に欲を張ることの恐ろしさ

が強調されています。江戸の町人文化において、こうした怪談は単なる怖い話であると同時に、生きる知恵や戒めを含む物語でもあったのです。

本所七不思議としての置いてけ堀の位置付け

本所七不思議とは何か?

「本所七不思議」とは、一説には9つの怪異現象を含む江戸時代の墨田区(旧本所)地域の伝承群です。都市の発展とともに失われつつある怪談や奇談で、現在は地元の碑や公園などに形を変えて残っています。

本所はかつて下町職人の町として知られ、明暦の大火後には両国橋の架橋で繁華街として発展しました。その頃から語り継がれた怪異伝説は、人々の暮らしの中に溶け込み、地域文化の重要な一部となりました。

置いてけ堀のシンボル的存在感

本所七不思議の中でも、置いてけ堀は特に有名で恐れられた伝承です。江戸時代から現代に至るまで、落語や演劇、そして地域の観光案内にもよく登場します。

墨田区錦糸堀公園の入口には、置いてけ堀の怪談を紹介する立て看板と河童の石像が設置され、訪れた人々に昔の物語とその教訓を伝えています。

まとめ:置いてけ堀が伝える現代へのメッセージ

置いてけ堀の物語は、単に怖い都市伝説ではなく、江戸時代の町人たちの生活と自然観、倫理観を映し出す鏡です。「自然を敬い、与えられたものには感謝し、欲張らずに生きること」という普遍的な教えが込められています。魚を釣って得をするばかりではなく、何かを「置いてゆく」ことの大切さを感じさせてくれるのです。

このような伝承は時代を超えて価値を持ち続けており、私たち現代人にも自然や周囲との調和の大切さを思い出させてくれます。置いてけ堀の恐怖譚を読み解くことで、昔の江戸の人々の心に触れつつ、自分自身の生き方を振り返るきっかけにもなるでしょう。